胃に慢性的な炎症を起こす細菌

ピロリ菌の正式名称は、「ヘリコバクター・ピロリ」という細菌です。胃に慢性的な炎症をおこす細菌として1983年にオーストラリアのウォーレンとマーシャルにより発見されました。
通常胃の中は強い酸性環境下にあるため細菌が生きていくには厳しい環境にあります。ピロリ菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を産生することで、胃の粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、生じたアンモニアで、胃酸を中和して胃の中での生息を可能にしています。
今では慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、その他様々な疾患の原因のひとつと考えられています。日本では1992年の時点で、若年者の感染率は低いものの40歳以上では70%以上の方が感染していることがわかっています。
ピロリ菌は幼児期に感染する
ピロリ菌の具体的な感染経路は不明ですが、胃内に定着することから、口から入って胃に感染すると考えられています。ほとんどが幼児期に感染します。なぜなら、幼児期の胃の中は酸性が弱く、ピロリ菌が生き延びやすいためです。そのため最近では、母から子どもなどへの家庭内感染が疑われており、ピロリ菌に感染している大人から小さい子どもへの食べ物の口移しなどには注意が必要です。
ピロリ菌に感染するとヘリコバクター・ピロリ感染胃炎を引き起こします。
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎は、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、胃ポリープなどの胃の病気をはじめとし、特発性血小板減少性紫斑病や慢性じんましんの原因のひとつであり、また、萎縮性胃炎を経て一部は胃がんを引き起こすことが知られています。
ピロリ菌が病状を進行させている主な疾患
萎縮性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん など
ピロリ菌の検査
胃がんの原因にもなるピロリ菌の検査には、胃カメラ検査を伴う方法と伴わない方法があり、それぞれ3つずつ、合計6つの方法があります。なお、当クリニックでは胃カメラ検査を伴わない方法でピロリ菌検査を行っております。
当院では、胃カメラ検査を行わずに、次のいずれかのひとつ、あるいはふたつの検査を組み合わせて感染の有無、除菌後の判定を行っています。
尿素呼気試験
ピロリ菌のもつウレアーゼ活性を利用した検査で、呼気(吐き出した息)を採取して調べます。
※尿素呼気試験は空腹での検査になりますので、食後4時間以上空けた状態でご受診ください。
抗体測定法
ピロリ菌の感染によって血液中に産生された抗体の有無を調べる検査
糞便中抗原測定法
糞便中にピロリ菌抗原(細菌毒素や菌体成分)の有無を調べる方法です。
ピロリ菌の除菌について
除菌については、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害剤)と2種類の抗生物質、合わせて3種類の薬を朝と夕の1日2回1週間内服します。
近年1次除菌薬による除菌率は制酸薬の改善に伴い80%~90%程度となっています。初回治療が不成功であった場合は抗生物質の組み合わせを変えた2次除菌薬により治療を行います。2次除菌薬による除菌率は95%程度であり、ほとんどの方が1回もしくは2回の治療で除菌に成功しています。しかしながらごくわずかな方で2回とも不成功となる場合があります。現在のところ2次除菌でも不成功の場合、決まった治療法はなく、様々な施設でいくつかの組み合わせが提唱されている状況です。
3次除菌について
当院ではこれまでの経験および比較的多くの施設で行われている組み合わせで3次除菌(保険適応外)を行っています。
また、ペニシリンアレルギーの方に対し、アモキシシリンを含まない組み合わせでの治療(保険適応外)も行っています。
除菌 | 胃酸を抑える薬 | 抗生物質 | 抗生物質 |
---|---|---|---|
1次除菌 | プロトンポンプ阻害剤 | アモキシシリン | クラリスロマイシン |
2次除菌 | プロトンポンプ阻害剤 | アモキシシリン | メトロニダゾール |
3次除菌 (保険適応外) |
プロトンポンプ阻害剤 | アモキシシリン | シタフロキサシン |